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2019.3.25

マヌエル・アカンジの物語

マヌエル・アカンジの物語

マヌエル・アカンジについて言えば、自信と傲慢はイコールではない。確かにその振る舞いは無愛想に見える。しかしそこに偽りはない。「自分に何ができるかわかっている」アカンジは、「でも自分を過大評価しないようにしている」という。一つだけ確かなのは、彼が不屈の精神の持ち主であるということ。相手が敵のストライカーであっても運命の女性であってもそれは同じ。見事に彼女の心を射止めたアカンジは、この夏に結婚する。

 

人の自信の度合いをテストする方法はいろいろある。ネットで軽く調べただけで、性格診断に関する質問項目がたくさん出てくる。慣れない状況に置かれたとき不安を感じるか? 社会的交流を避けるために言い訳をするか? 権力を持つ人物と話すときに緊張したり不安になったりするか? 知らない人と一緒だとあがってしまうか? 意見が食い違った場合、真っ先に意見を引っ込めてしまうか? なかには「自信を高める108の方法」なるものを無料で提供しているウェブサイトもある。

 

 

しかしたとえこれらの方策が有料で提供されていたとしても、アカンジがそれにお金を注ぎ込むことはないだろう。ボルシア・ドルトムントのスイス人センターバックは、自信に満ちあふれているからだ。あまりにも自信たっぷりなため、南ドイツ新聞の記者が、「うぬぼれや傲慢」に達することもあるのではと質問したくらいだ。笑顔で首を振り、これを否定したアカンジだが、その境界線が紙一重であることは承知している。彼は確かに無愛想に見えるが、その態度に偽りはなく、何かを鼻にかけたり、自信過剰になったりすることは決してない。「これが僕なんだ」とアカンジは説明した。「自信にあふれていて、自分に何ができるかわかっている」。自分らしく振る舞うことを重視しているアカンジだが、その一方で「自分を過剰評価しないようにしている」とも話した。

 

ピッチの上で決して屈することのない熟練したプロ選手は、ピッチの外でも簡単には屈しない。アカンジは2018年8月31日、そのことを証明してみせた。この夜、BVBは敵地HDIアレーナでハノーファーに0-0の引き分けに抑えられた。つくったチャンスは片手で数えられるほどだった。試合後、ミックスゾーンに現れたアカンジは、クラブを長く取材してきたある記者に「今夜はチャンスが少なすぎたのでは?」と聞かれると、「何を期待していたんだい? ここで僕らがチャンスを10個つくること?」と答えたのだ。さらに記者は聞いた。「10個とまでは行かなくとも、もう少しはつくれたのでは?」「いつもプランどおりにはいかないよ。君だっていつも仕事がうまくいくわけではないだろう?」。アカンジの言うとおりだ。このやり取りでアカンジは、自分の考えを持った成熟したプロフェッショナルであることを示した。まだ23歳と若いが、どんなことでも率直に話す。そして必要とあれば彼を諌めてくれる人を常に周りに置いている。「すべてにおいてバランスを取るようにしている。家族でも友達でもフィアンセでもそう。僕は常に適切な人たちに囲まれているんだ」

 

昨年9月に婚約

 

フィアンセのメラニー・ビンドラーさんと出会ったのは4年前、場所はビンタートゥール。すぐに意気投合し、アカンジはまたこの魅力的な女性に会いたいと思ったが、最初は断られたという。なぜなら初めての出会いから3日後に、メラニーさんは交換プログラムで4カ月間、アメリカに行くことになっていたからだ。「僕は彼女を待ったよ」とアカンジは笑いながら明かした。2018年9月に婚約した二人は、この夏に結婚することになっている。場所は親しい人たちしか知らない。BVBのチームメートはもちろん、この特別な日をアカンジのナイジェリア人の父アビンボラさん、母イザベルさん、そして姉妹のミシェルさん、ザラさんと共に祝うことになるのだろう。ザラもサッカー選手で、FCビンタートゥールでプレーしている。それだけでなく、スイスの州議員選にも立候補。アカンジは彼女をこれ以上なく誇りに思っている。「ザラは自分が正しいと思うことのために戦っている」

 

アカンジが指針としているのは、積極的に関わり、大事な役割をこなし、何よりインパクトを残すこと。チームメートのジェイドン・サンチョが証明しているように、「年齢はただの数字にすぎない」ため、アカンジはチームに加入後、すぐに責任を引き受けた。7-0で圧勝した9月26日のニュルンベルク戦で、マルコ・ロイスが30分を残してベンチに下がったときはキャプテンの腕章を巻いた。実はバートラガーツでのシーズン前キャンプ中、4-3で競り勝ったFCチューリヒ戦でも主将を務めていたのだが、観客なしの親善試合だったため見過ごされていた。「監督やチームメート、理事会から認められるのはうれしい」と語ったアカンジ。「まだ来て1年だから誇らしい気分だ。でもこれは僕がこの1年、よくやってきた証でもある」

 

数学の天才でチーム評議会の若手代表

 

そのため、BVBのチーム評議会の若手代表に選ばれたのも、本人には「ちょっと驚き」だったとはいえ、当然のことだった。英語、フランス語、ドイツ語に堪能なため、ほとんどすべてのチームメートと直にコミュニケーションが取れる。「足りないのはスペイン語だけだね」。しかし学生時代から得意だったのは語学だけでなく、数学にも高い才能を見せていたという。電卓より速く足し算ができるアカンジは、あるスイスのTV番組に出演して以来、数学の天才と言われてきた。「よく足し算の暗算をして楽しんでいたよ」とアカンジは明かす。

 

サッカーのほうでも、ブンデスリーガでのここまで14カ月間で高い評価を得てきた。スポーツディレクターのミヒャエル・ツォルクは、アカンジを「恵まれた体格、空中戦での強さ、そしてスピード」を持った「総合的に完成された」センターバックだとみている。ツォルクがすぐに目を奪われたのは、アカンジの統率力。守備陣を指揮し、状況に応じて守備ラインを修正する能力だ。アカンジ獲得の決め手となったのは、移籍市場の終盤、2017年11月のザンクト・ヤコブ=パルクでのチャンピオンズリーグ・グループステージの一戦。ホームのFCバーゼルは、圧倒的に本命と見られていた強豪マンチェスター・ユナイテッドを1-0で下した。この試合で土壇場に決勝点を奪ったミヒャエル・ラング(今はボルシア・メンヘングラットバッハ所属)にも感銘を受けたツォルクだが、それ以上に500キロを移動して偵察に来た甲斐があったと確信したのが、アカンジのパフォーマンスだった。「ロメル・ルカクのようなトップストライカーでさえ、あの夜のマヌエル・アカンジを前にして何もできなかった。あれは深く印象に残った」とツォルクは話している。

 

 

2017年秋には、この将来性豊かなディフェンダーの争奪戦が始まった。ユベントスやミラノの2クラブに加え、FCシャルケ04も獲得に興味を持っていると報じられた。ツォルクはアカンジがBVBを選んだ理由について、これからどのような道筋をたどって成長していくのか、細かく説明したことが大きかったのではないかと考えている。「明確なプランを用意していた」とBVBのスポーツディレクターは打ち明けた。「彼に明確な道筋を示した。そこが他のクラブとは違っていたのかもしれない」。22歳だったアカンジは2022年までの契約にサイン。「長期的な視野で獲得を考えていた」ツォルクにとっては、まさしく胸をなで下ろすような結果だった。

 

アカンジは昨年末からしばらく戦列を離れていたものの、3-2の逆転勝利を収めた2月のバイヤー04レバークーゼン戦でウインターブレーク後初めてピッチに立った。しかし、昨年12月18日にデュッセルドルフで負った肉離れは「怪我の功名」となり、長期離脱を余儀なくされたことで、これまで彼を悩ませてきたでん部の違和感を突き止める時間も与えられた。恥骨付近の痛みは昨年5月の時点で消えていたため、アカンジはロシアでのワールドカップに出場。そのままケガのない状態でプレシーズンを迎えたが、「開幕から6、7試合を終えた頃、屈筋の辺りに違和感を覚えた。その付近や内転筋、あるいはその裏が痛むこともあった」ため、今年1月には専門医に相談する。その目的は保存療法で治せるのか、あるいは手術が必要なのかを確かめるためだったが、医師団が勧めたのは局所的トレーニングだった。その後はBVBのフィジオチームにも、柔軟性にやや難があるアカンジのでん部をケアするための調整法が伝授されている。

 

約10週間の離脱

 

スイス代表として13キャップを保持するセンターバックは、約10週間の離脱を強いられた。かなりの長期間には違いないが、十字靭帯を損傷し、2016年3月から2017年2月まで戦列を離れていたことを思えば何でもなかった。アカンジのような「すべての試合に出場し、すべての瞬間を楽しみたい」サッカー選手にとって、その11カ月間はキャリア最大の試練というべき時期だった。スイスのオンライン新聞とのインタビューでは、ケガをした瞬間を次のように振り返っている。「シュートをブロックするつもりだったんだ。その直前にボールが顔面に当たり、少し意識が飛んでしまった。元に戻った後、走りながら競り合う場面になり、ボールに触れるかどうかは五分五分、自分が少し苦しいかなという感覚だったので、中途半端にタックルにいき、ひざを痛めてしまった。軽傷でないことはすぐにわかったね」

 

ケガの怖さを思い知ったその日以降、アカンジは「より深く考える」ようになった。身体のこと、ケアと予防法、さらには栄養学についても。ドルトムントでは定期的に栄養士のアドバイスも受けており、今では野菜の摂取量が増え、十分な水分補給にも気を配るようになった。「わかっていても、つい忘れがちなことだから」とアカンジは説明する。1月の診察以降、体重増加を避けるために炭水化物も減らすようになったアカンジだが、たとえ苦しい時期でも心理学者の助けを必要としたことはない。「自分の身体やその特性については自分で管理できる自信があるし、自分のキャリアを疑ったこともないからね」

 

アカンジがサッカーを始めた頃、ポジションはセントラルミッドフィルダーとウイングだった。その時に培ったスキルは、近代的なセンターバックのお手本というべき現在のプレーの基礎となっている。アカンジは最終ラインからゲームを組み立て、鋭く正確な縦パスで攻撃のスイッチを入れることができる。「こういう役割を担うには特定の技術が必要になる」とアカンジ。「今ではビルドアップでもチームの力になれることが重視されていて、自分の持ち味を生かすことができる。ボールを扱うのが大好きだし、なるべくロングボールを放り込むのではなく、しっかりパスをつなぎたい」。2015年にアカンジを引き抜いたFCバーゼル1893のスポーツディレクター、ゲオルク・ハイツも「マヌエルは特別な武器を持つ選手だ。ボールを簡単に蹴り出すのではなく、丁寧に扱うことができる。すでに100試合に出場している選手のようにね」と評価していた。

 

BVB加入当初、アカンジに備わった最後尾の司令塔あるいはパサーとして能力は、現在ほどチームに必要とされていたわけではなかった。2017-18シーズンのBVBは調子が安定せず、15試合を消化した時点で8位に低迷するなど危険信号が灯っていた。そしてペーター・ボス監督が解任され、新たにペーター・シュテーガー監督が就任。このオーストリア人指揮官に与えられたタスクは、美しいサッカーでタイトルを獲得することではなく、チームを立て直し、UEFAチャンピオンズリーグのグループステージ出場権を確保することだった。そして新監督がより堅実なスタイルを取り入れた結果、ウインターブレーク中に加入したアカンジは構想から外れることに。スイスのノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング(NZZ)紙に対し、アカンジは「あの頃の僕らはとにかく戦い、必死に抵抗しているだけのようだった」と明かしている。「今の僕らはそれ以前のようにプレーし、洗練されたポゼッションベースのサッカーにトライしている」。ルシアン・ファブレ現監督の下、アカンジは自身の役割が「攻撃にも関与するセンターバック」になったと感じている。ファブレ監督もアカンジにある程度の自由を与え、組み立てにも関わっていくことをはっきり求めた。ファブレ監督の哲学とシステムにおいては、センターバックが攻守の基盤を支える重要な役割を担っているのだ。相手選手を徹底的にマークし、必要とあればトイレにもついていくような旧態然としたセンターバックは、もはや時代遅れになりつつある。「現在ではどのクラブもボールテクニックのあるセンターバックを求めている」。そう指摘したアカンジのもう一つの大きな武器は、チーム内で1、2を争う圧倒的なスピードだ。それでもアシュラフ・ハキミ(トップスピードは時速35.1kmを記録)に及ばないという事実は、アカンジの負けん気に火をつけている。「つまり、もっと速くなれという意味だね」とアカンジは語った。

 

プリシッチとの賭け

 

アカンジは現在、チームメートで同じアメリカンスポーツ好きのクリスティアン・プリシッチとある賭けをしている。バスケットボールではアカンジがオクラホマシティ・サンダー、プリシッチはロサンゼルス・レイカーズのファンなのだが、ウェスタンカンファレンスに所属する両チームのレギュラーシーズンの順位によって、この賭けの勝負が決まるそうだ。勝者が手にするのは、ロンドンで行われるNFLインターナショナルシリーズ(アメリカンフットボール)への観戦ツアー。仮にオクラホマがレイカーズを上回れば、プリシッチがアカンジの旅費と宿泊費を負担することになる。秋に行われるこの試合の正式日程は、NFL(ナショナル・フットボール・リーグ)が4月に発表する予定。対戦カードはカロライナ・パンサーズ対タンパベイ・バッカニアーズ、シカゴ・ベアーズ対オークランド・レイダース、シンシナティ・ベンガルズ対ロサンゼルス・ラムズ、ヒューストン・テキサンズ対ジャクソンビル・ジャガーズとなっている。いずれにせよ、アカンジがこの賭けに敗れたとしても、プリシッチほどの出費を強いられることはないだろう。少なくとも、プリシッチにロンドン行きの航空券を用意する必要はない。なぜならこのアメリカ代表ミッドフィルダーは、7月1日からロンドンを本拠地とするチェルシーFCの一員になるのだから……。

 

 

著者:アレクサンダー・ノイハウス、写真:アレクサンダー・シモエス

 

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